(「インテリアに興味のない人も読める、インテリアの記事を書いてください」とのリクエストで、2019年9月から2020年2月まで地方新聞十数紙の趣味文化欄に連載された『読むインテリアレッスン』全20回を、時事通信社様の許可を得てこちらに掲載します)
音の「手触り感」を楽しむ
アナログレコードの人気が復活しています。大きくて重くて場所を取り、聴くまでの準備も手入れも面倒というかつて敬遠された理由が、今はそのまま、わざわざ聴く贅沢さや所有する愛着に変わるのですから、わからないものです。アナログ人気が単なる懐古趣味ではないことは、若い世代に広がっていることからも明らか。いつでもどこでも一曲ずつ聴き放題の配信サービスが浸透したからこそ、LPアルバムのやや面倒な「手触り感」が再評価されているのでしょう。
取り出すとふわっと広がるレコード盤独特の匂いを感じ、埃をきれいに拭いたら、ターンテーブルにのせてそっと針を落とす。ライナーノーツをじっくり読みながら分厚い音に耳を傾け、曲順に込められた作者の思いを感じ取るーーそんな向き合い方は、部屋でこそ楽しめるもの。持ち歩く音楽とは対極のアナログレコードは、インテリアと一番近い位置にある音楽メディアだと思います。310〜315㎜角と存在感のあるサイズで、秀逸なジャケットデザインが記憶に残る名盤も数多いので、アートワークとしての魅力も大きいですね。
知人の仕事場に、写真のような一角がありました。アナログレコードのコレクション棚の上に、レコードプレーヤーと手作りの真空管アンプ。壁に奥行き14cmほどの棚を取り付け、その日の気分でジャケットを選んでディスプレイ。撮影時のテーマは映画音楽で、他にも「人の顔」「ブルー」「雨」「海」など、毎日違う組み合わせを楽しんでいます。気合を入れたい時に飾るジャケットも決めているそうです。
休日の朝、掃除中、ホームパーティ、好きなお酒を飲むとき、眠る前のひとときなど、気分にぴったりの音楽があると、家で過ごす時間が豊かになります。ストリーミングやサブスクリプションが主流の時代だからこそ、そもそも形のない音楽にまつわる、目で見たり手で触ったりできることも大切に、空間の中で味わえたらいいなと思います。
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